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教育を根本から変える『教えない授業(英治出版/鈴木有紀著)』を読んだ感想
著者は愛媛県美術館学芸員の鈴木氏。
美術館の教育普及を担当し「対話型鑑賞」の普及をされている方。
本書の内容を一言で言うなら、「対話型鑑賞」の入門書。
対話型鑑賞とは、
対話型鑑賞とは 作品についての情報や解釈を専門家や教員が一方的に伝えるのではなく、鑑賞者自身の思いを尊重し、グループでの対話を通して作品を味わっていく鑑賞法。1980年代にニューヨーク近代美術館(MoMA)で生まれた。理論的に設計された問いに基づき、「見る → 考える → 話す → 聴く」というプロセスをとることで、豊かな対話と学びを促す。鑑賞力だけではなく、観察力・批判的思考力・言語能力・コミュニケーション能力といった総合的な「生きる力」の育成につながる手法として、他教科での応用や企業研修への導入が進んでいる。
効果抜群の学習スタイルとして幅広く広がっているそうです。
ビジネス界にも広がっているみたいです。
教育のパラダイムシフト
今までの教育ではまず、
- 先に「答え」知識を教える
- ノートに書く
- 覚える
というアプローチです。
対話型鑑賞を取り入れた授業では、先生が一方的に何かを教え、子どもたちは黒板の文字をノートに書き写すだけ、といった光景はみられません。子どもの発言について先生が正解か間違いかを告げることもありません。
鈴木有紀. 教えない授業美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.207-209). Kindle 版.
しかし、対話型鑑賞ではあえて答えは「教えない」といいます。
その代わりに「問い」かけを行うらしいです。
その結果、
- 様々な見方を引き出す
- 自分なりに考えた答えを出す
- 気づきや考えや疑問などお互いの意見を知る
- 興味が深堀りされる
- 考えが広がり深まる
このように問いが学びを促す結果になるといいます。
あえて教えないことで、主体的に学ぶことにつながるわけですね。
多くの見方があるということを体感できます。
そして、あえて答えを出さないことで、全てが答えになりうることを実感する。
どんな問いかけが有効か?
本書の中では、
- これは何だと思う?
- どのように見える?
- 他にはありますか?
- そこからどう思う?
- どこからそう思う?→根拠を見つけ出すようになる(なぜそう思う?では×)
のようなことが例に出されていました。
ビジネスの現場でも使える
論理的思考力やコミュニケーション能力、他者の考えをくみ取る「傾聴力」といった能力もビジネスパーソンの基礎的な能力として重要視されています(※5)。こうした力を培うのに対話型鑑賞が役立つと考えられます。
鈴木有紀. 教えない授業美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.381-384). Kindle 版.
よくよく考えてみれば、私の最初の上司(スーパーセールスマン)もよくこの「対話型鑑賞」を部下に使っていた気がします。
実際にこれを意識していたかどうかはわかりませんが。
部下には多くの問いを行い、そこであらゆる視点を気づかせるということを実践されていました。
ただ、これをやれあれをやれ、ではなく自分で考えさせて、能動的に動かせるというのは管理職の人間には求められますよね。
言われたことだけをやるのではなく、自分の頭で考えて自発的に行う人間に教育するためには有効
答えばかりを与えられるというのは正直楽です。
考えなくていいわけですから。
悩まなくていいわけですから。
しかし、結局のところそれでは言われることしかやらない人間しか生まない。
この対話型鑑賞がいいところはこの自分で考える人間をつくるという点だと思います。
鑑賞と言うとどうしても「みる」ことが中心ととらえられがちですが、対話型鑑賞では「考える」「話す」「聴く」も同様に重要です。これらを順序よく、繰り返し行っていくことで、学びを深めていくことができます。
鈴木有紀. 教えない授業美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.489-491). Kindle 版.
ここの教育が圧倒的に私は小中高時代は欠落していた気がします。
結局対話の中からしか深い思考って生まれにくいですから。
直感や疑問を大切にしながらも、作品のどの部分をみてそう思ったのか、「根拠」を探すことを対話型鑑賞では重視します。
鈴木有紀. 教えない授業美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.496-497). Kindle 版.
特にこの「考える」というのは一番大事な気がします。
なぜそう思ったのか、を考えるのは価値観を反映しています。
人生も進路や何らかの決断をしなければならない時はとことん自分で考えて自己と対話しなければいけません。
これに慣れておくという意味でも、この対話型鑑賞教育は非常に有効な手段なのではないでしょうか。
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